介護の現場で「老い」と向き合っていると、時々、世の中が狂っているように見える。 若さを保つためのサプリメント、美容整形、アンチエイジング……。 そこにあるのは「健康でいたい」という願いを超えた、老いに対する異常なまでの「恐怖」と「執着」だ。
そんな現代の病理に、特大の爆弾を投げつけるような映画を観た。 デミ・ムーア主演の『ザ・サブスタンス』だ。
映画『ザ・サブスタンス』を観た:アンチエイジングの化け物が爆誕する
ストーリーはシンプルだ。 かつてのスターで、今は「老い」を理由に居場所を失いつつある主人公が、謎の薬品「ザ・サブスタンス(物質)」に手を出す。 それを注入すると、自分の中から「より若く、より美しい、より完璧な自分」が文字通り分裂して飛び出してくる。
一週間ごとに本体と交代する、というルールで二人の共同生活が始まるのだが、人間というのは強欲な生き物だ。 若さという麻薬に溺れた「新しい自分」は、本体の命を削ってでも、その輝きを維持しようと暴走し始める。
そしてラスト。 アンチエイジングを突き詰めた果てに生まれるのは、もはや人間ですらない「化け物」だ。 最後にはコラリ・ファルジャ監督から、 「若さを求めるバカも、それを持て囃すバカどももどっちもバカ! これでも食らいやがれ!」 と言わんばかりに、スクリーンいっぱいの血肉と排泄物(特大の💩)をぶちまけられて終わる。
観終わった後の疲労感と、「ざまあみろ」という爽快感が同時に押し寄せる凄まじい映画だった。
シリコンバレーで起こっている「Don’t Die」運動
だが、これは単なる映画の話じゃない。 現実の世界、特にシリコンバレーの億万長者たちの間では、本気で「死」をハックしようとする動きが加速している。
その象徴が、ブライアン・ジョンソンらが提唱する**「Don’t Die」運動**だ。
彼は年間数億円をかけ、自分の体を24時間モニタリングし、100種類以上のサプリを飲み、息子の血を自分に輸血してまで若さを保とうとしている。 彼が掲げるスローガンは「Don’t Die」。 つまり、テクノロジーで老化を克服し、死をオプション(選択制)にしようというわけだ。
若さに執着する人々:おれたちはどこへ向かうのか
『ザ・サブスタンス』の主人公と、「Don’t Die」を叫ぶ億万長者たち。 おれには、彼らが同じ鏡を見ているように見える。
若さは素晴らしい。だが、それは「有限」だからこそ価値があったはずだ。 介護の現場で、徐々に枯れていく体、消えていく記憶、そして訪れる最期を日々見つめているおれからすれば、彼らの執着はどこか滑稽で、同時に底知れぬ孤独を感じさせる。
老いることを拒絶し、化け物になってまで「若さ」という椅子にしがみつく。 その先に待っているのは、幸せな長寿ではなく、自分ですらコントロールできなくなった「欲望の塊」でしかない。
監督がラストシーンでぶちまけた「💩」は、そんな執着に憑りつかれた現代人への、最高に皮肉な洗礼だったのかもしれない。
おれは、今日もプロテインを飲み、筋トレをして、少しでもマシな体型を維持しようと足掻いている。 でも、いつか訪れる「枯れる時」を受け入れる準備だけは、しておきたいと思う。

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